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インタビュー

国産キーボードブランド「ZENAIM」、業界参入直後の激動と抱き続けてきた強い想い

国産キーボードブランド「ZENAIM」、業界参入直後の激動と抱き続けてきた強い想い

2023年5月16日に初めて発売された後、1分で完売した国産キーボードブランド「ZENAIM」。しかし不具合の発生などで販売を見合わせ、その後改修に向き合い続けた6カ月、そして11月に開始した再販。激動の半年をどのようにどんな想いで過ごしたのか。
株式会社東海理化電機製作所 ZENAIM プロジェクトマネージャーである橋本侑季氏、ZENAIM 開発マネージャー 千崎大輔氏、そしてプロモーションのお手伝いをするウェルプレイド・ライゼスト株式会社 ブランドプロデュース事業部 事業部長の大津勇人の3名にお話を伺いました。


上記写真左から

左:ウェルプレイド・ライゼスト株式会社 ブランドプロデュース事業部 事業部長 大津勇人

アメリカ留学中にeスポーツに熱狂する友人の影響を受け、eスポーツに魅了される。帰国後、日本初のeスポーツ施設「e-sports SQUARE」で音響やハイライト映像などの技術担当として従事。ウェルプレイド・ライゼストに2017年入社。アシスタントディレクター、ディレクターを経て、プロデューサーへ転身。「PUBG JAPAN SERIES」や「EDION VALORANT CUP」などを手掛けた後、2021年にビジネスデザイン事業部(現ブランドプロデュース事業部)を立ち上げ。事業部長として、「LIMITZ」「eスポーツキャンプ」など、eスポーツを活用した新たな事業領域を開拓し続けている。

中:株式会社東海理化電機製作所 ZENAIMプロジェクトマネージャー 橋本侑季

2019年にTOKAIRIKA DIGITALKEYプロジェクトの立ち上げメンバーとして東海理化へ入社し、サービス企画や新規顧客開拓を行う傍ら、自身もゲームを愛する者として、日本のゲーミングデバイス市場が外資メーカーによって寡占されている中、自社技術を応用すれば、ユーザーが感じられている課題の多くを解決できるのではないか?国産メーカーとして世界的なブランドに成長していくことで、国内のeスポーツ市場をもっと盛り上げていけるのではないか?と思い、より幸福なゲーム体験を提供するブランド“ZENAIM”を立ち上げる。

右:株式会社東海理化電機製作所 ZENAIM開発マネージャー 千崎大輔

2008年東海理化入社。ワイヤレスセキュリティ製品の設計・開発に従事。2016年よりデータ分析に基づくエンジニアリングの推進業務に携わる傍ら、新規事業創出のための取り組みを開始。社内初のクラウドファンディングプロジェクトを完了の後、ZENAIMの立ち上げに参画。現在に至る。


「ZENAIM」発足は、プライベートの趣味から見出したビジネスの芽

橋本:僕は、スマホが車の鍵になるデジタルキーを扱う新規事業の企画担当として所属していたので、自身の業務とキーボードは接点がなかったんです。きっかけは、プライベートでPCゲームを始めようと思い、様々なPC周辺機器について調べ始めたことですね。そこで、たくさんのPC周辺機器を調べる中で海外のメーカーが多い事に気付き、業界では耐久性やアフターなど多くの面でユーザーが不満を抱えている中、世界的な国産ブランドがないことに気付き、すぐに企画書を作って上司に見せ、まずはやってみようということになり、二足の草鞋で市場調査をするところから始めました。

千崎:僕はデジタルトランスフォーメーションの推進を全社の活動の中で行っているんですが、ある日突然「今話せる?」と橋本の上司から連絡がきて。話を聞いたときは、僕自身キーボードマニアなので「ついにきたか!」とわくわくしました。その後、企画が煮詰まったタイミングから本格的にジョインしました。

橋本:市場調査を進める中で2つのことが分かったんです。一つは、製品購入を通してユーザーが完全に満足するデバイスにまだ出会えておらず何かしらのトラブルを抱えていること、そしてカスタマーサポートに対する悩みや不満を抱えていたことです。もう一つは、海外のプロチームが使用する機器を日本のプロチームが使用する、それをみたユーザーが同じ製品を使う、という流れができていることです。これらの課題と市場の流れに対して、国産ブランドとして参入することでできることがありそうだと思ったんです。企画当初から会社をあげてのプロジェクトと思っている方もいるかもしれませんが、実際は会社に黙って進めていたプロジェクトなんです。社長に話をする頃には試作品が出来上がっている段階でした(笑)

初回販売は1分で売り切れる快挙を成し遂げるも、待ち構えていた大きな障壁。

橋本:5月の販売開始前にLaz選手とcrow選手(現コーチ)がSNSでセットアップを紹介してくださったことで話題に上がり、ご期待いただいている状態から始まりました。一方で、価格に関する懸念の声も多くいただきました。僕らとしては殿様商売をするつもりは一切ないんですが、全て自社開発から生産まで行っているのでどうしても高くなってしまいます。だからこそ、触ってから評価をしてもらいたいという気持ちがありました。そんな中で初回販売時、再販時と連続して不具合が発生したことをとても悔しく思いますし、思い描いていたことに対する大きな挫折となりました。

大津:当時のとても落ち込んでいる橋本さんのことは忘れられません。それでも会議のときはしっかりと向き合いながらより良くするための会話が大半を占めていたので、ある種の気迫を感じていました。

橋本:ZENAIMを信じて購入してくださった方々には真摯に向き合いたいという思いがあったので、歩み寄ることは絶対に諦めたくなかったんです。SNSを通したユーザーさんの声に対しても、「ZENAIM」の公式Twitterアカウントから対応したほうがいいのかとも考えましたが、中の人として自身がユーザーさんに直接謝罪をすることで、しっかりコミュニケーションをとろうと心がけていました。今もユーザーさんの声はなるべく全てに目を通すようにしています。

千崎:橋本個人の強い想いに加えて、東海理化が自動車のリコール対応経験を培ってきた会社であるからこそ、異常時の統率力は強みだと思います。これからも知見を生かして真摯に向き合っていきたいと考えています。

ビジネス観点とユーザーが本当に求める製品開発のジレンマを乗り越え、好評いただける製品を届けることに成功した東海理化の強み

橋本:ZENAIMのコンセプトは、「一人一人にとって、より幸福なゲーム体験の提供を目指す」です。購入前、購入後、買い替えるタイミングというライフサイクルを通して、感動的なユーザー体験を提供したい、ユーザーの悩みを解決したいと考えていました。一方で会社に所属している限りビジネスとしても成立させる必要がありますが、そこを求めすぎるとありきたりな製品になってしまうというジレンマがありました。考え続けた結果、やはり実現したい世界は、「ユーザーやプロが求める製品を提供し続けること」だったんです。ちゃんと良いものを作ろう、と。ブランドコンセプトやそもそもロープロでいいのか、みたいなところを悩んでいたときから、ウェルプレイド・ライゼストさんにはeスポーツの知見をプロとしてサポートしていただきましたよね。

大津:GAMING LIFESTYLE Companyとして、人の未来により良いサービスを提供していきたいと考えるウェルプレイド・ライゼストとして、とても共感しましたしわくわくしました。僕は、「ZENAIM」のプロモーションについてより具体的に進めましょうとなってから本格的にプロジェクトに参加しました。スイッチを一から作ることができたのは、東海理化さんだからこそだと思います。市販品を使わないという判断をする企業はなかなかないんじゃないでしょうか。すでにハイスペックなキーボードを使用しているユーザーさんに対して、カタログ上だけでは語り切れない細やかな点もこだわりぬいていることにプライドを感じました。

千崎:ありがとうございます。多種多様なキーボードを研究したり、自作キーボードのマニュアルを読み込んだり実際に制作したりして、自分なりの知見を増やしながら、高速で進む開発に生かしてきました。また、開発をする中でマーケティングとエンジニアリングの共通言語の壁に当たる方も多いと思うんです。僕はこれらを混ぜて推し進めることが得意なので、言語化をして対話を進めることに注力しました。

橋本:ウェルプレイド・ライゼストさんには、プロモーションだけでなく、ブランド構想、イベント、SNS運用といった様々な面でもお手伝いいただいていますが、とても心強いですし必要不可欠な役割を担ってもらっていると思います。これからも共にユーザーさんによりよいサービス、製品を届けていきたいです。

大津:最新情報でいうと再販タイミングにモーションハックなどが実装されましたよね。

千崎:一番こだわったハードの作り込みに関連する実装を届けることができて嬉しく思います。キーボードは、ハードの性能に依存します。ハードの作り込みをしっかりすることで、ソフトアップデートでいかようにも性能を上げることができるんです。例えば、ハードの部品単位で寸法のばらつきがあり、それを組み付けまで考えていないと、ソフトでコンマ一ミリを調整しても対応できない。ここはカタログスペックだけだと見えてこない本質のところだと思ってます。

大津:実際に反応はいかがですか?

橋本:多くの方々から好評の声をいただいています。本当によかったなと心から思います。

千崎:表には出ていないメンバーがたくさん関わってくれています。図面をたくさんひいたり、色んな人に頭を下げてくれたり、品質管理をしてくれたり・・・僕は最初のきっかけを作っただけですが、関係者全員がユーザーの皆さんの声を拝見して喜んでいます。

大津:「ZENAIM」がモーションハック機能の実装を発表してから、様々なキーボードメーカーが同様の機能の実装に動き出したように感じます。

橋本:ユーザーの皆さまにとってもよりよいゲーム環境を提供するきっかけになれたのであれば、とても嬉しいですね。先程は仰ってくださいましたが、実際に触っていただければ「ZENAIM」の良さを実感いただけると思います。

11月の再販開始時に発表されたアップデート内容のまとめ

ZENAIMブランドをユーザーと一緒に作っていくという強い想い

橋本:ありがたいことに11月、12月に販売した際は数分も経たないうちに完売しました。期待してくださったり興味を持ってくださっている方が多くいることに改めて感謝の気持ちでいっぱいです。スタビライザーを調整し、キーキャップも変更。検証を重ね、生産工程も見直しました。現状はカスタム性はないかもしれないが、ZENAIMを手に入れていただけさえすれば何もいじる必要がない状態にできています。ハードウェアの作り込みは完成しましたが、右側にソケットがきていることについての声も多く頂戴しています。これは型自体の作り直し及び基板の設計変更など、かなり大掛かりな修正が必要になるので、時間はかかりますが対応していきたいと思っています。US配列も楽しみにしてもらえると嬉しいですね。とはいえ、ユーザーのみなさんが満足してくれるものを提供するというスタンスを持ちながらも、「本当に必要としているものなのか」「ユーザーさんにとってどういうメリットがあるのか」を考えながら、アップデート内容に向き合っています。

大津:ブランドコンセプトを定めてからずっと、ZENAIMのブランド姿勢としてユーザーファーストを体現していると思います。僕自身、ZENAIMの魅力に取りつかれた一人ではありますが、体験会などの機会を通してウェルプレイド・ライゼストとして最大限良さを引き出していきたいと思います。そして、ゲーマーである僕からも是非推薦したいと思える商品なので、是非触ってもらえると嬉しいです。

千崎:本当に多くの人がZENAIMに関わっています。誰かひとりのものではない。ユーザーさんもその中の一人です。技術面を公式から積極的に発表しているので、ユーザーの皆さんには他社メーカーと比べて良いところ・悪いところを是非言語化していただきたいです。分かる人には分かるし、分からない人でも良いものと悪いものの違いが分かるようになると楽しいんじゃないかなと思うんです。関係性や想いが色々交錯する中で、プロダクトを作るのっていいよねって思ってもらいたいですし、日本の人にものづくりを志す人が増えてほしいと思っています。

橋本:今はキーボードしかありませんが、他の製品なども含めてユーザーの皆さんと一緒にZENAIMブランドを作ってもらえると嬉しいです。逆に求められていないものを出すつもりはないです。僕らはそこに対してのコミュニケーションコストを一番払ってでも良いものを作っていきたい。ユーザーの皆さんも自分も開発メンバーの一員だと思って、一緒になってより良いものを作ってるんだと思って頂けたら、こんな嬉しく、楽しいことはないなと思っています。


困難に直面したときにどう向き合い、どのように乗り越えるのか。ブランドを取り巻く関係者、ユーザーなど全てのステークホルダーへ真摯に丁寧に対応する姿に感銘を受けました。


ウェルプレイド・ライゼストでは、ブランド作りからファンコミュニケーションまで寄り添いながら、全てを一気通貫でお手伝いいたします。

「ZENAIM」公式サイト:https://zenaim.com/
「ZENAIM」公式Twitter:https://twitter.com/zenaim_official
お仕事のご相談はこちら:https://gloe.jp/contact/

取材・筆:ウェルプレイド・ライゼスト株式会社 広報室 広報室長 金田裕理